「源氏物語 梅枝」(紫式部)

源氏の「薫物論」「書道論」「結婚観」

「源氏物語 梅枝」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

明石の姫君の
裳着の支度として、
源氏は香の新調に取りかかる。
女君たちにも香木を配り、
自らのものを含めて
香合わせを行う。
さらに姫君の入内の準備として
名筆による物語や
歌集の本も集め、
書の論評会を行う。
一方、夕霧は…。

玉鬘十帖が完結し、新展開となる
源氏物語第三十二帖「梅枝」。
ここでは大きな展開の変化はなく、
源氏の三つの価値観が
語られることになります。
三つの価値観とは、
「薫物論」「書道論」「結婚観」です。

源氏の価値観①「薫物論」
源氏は香木を女君たちに配り、
それぞれ調合させます。そして
「香合わせ」(品評会)を行うのです。
参戦したのは源氏のほか、
紫の上・朝顔の前斎院・
花散里・明石の君。
判者は蛍兵部卿宮(この人物は
源氏の異母弟であり、「蛍」の主要人物)。
そして判定は…、
「みんな違ってみんないい」。

それにしても
いろいろな資料をひもといても
今ひとつよくわからなかったのが
「薫物」です。
現代でいう「香水」の代わりなのだと
思うのですが、それにしては
匂いがきつすぎるのではないかと
思われます。
暗闇で待つ女たちは
源氏の「香」で本人確認をし、
ひそひそ話をしていた女房たちは
廊下に漂う残り香で
源氏に立ち聞きされたことを確信する。
それだけの匂いを
発する必要は何だったのか?
もう少し調べてみたいと思います。

源氏の価値観②「書道論」
一方、書の品評会の面々は男衆です。
源氏に加え、蛍兵部卿宮・左衛門の督・
夕霧中将・兵衛の督・柏木中将。
こちらは判者を立てず、
お互いに褒め合う相互評価の形です。

それに先立ち、
源氏の書道観が展開されています。
「よろづのこと、昔には劣りざまに、
 浅くなりゆく世の末なれど、
 仮名のみなん今の世は
 いと際なくなりたる」

(すべて昔に比べると劣ってきて
 浅くなってしまった世の中だが、
 書道だけは現代の方が
 かなり優れてきた)

源氏の価値観③「結婚観」
ここは源氏が親として
夕霧に諭す場面です。
「さるまじきことに心をつけて、
 人の名をも立て、
 みづからも恨みを負ふなむ、
 つひの絆となりける。」

(好きになってはいけない女に
 思いを寄せ、
 その女も世間から悪くいわれ、
 自分も恨まれるのは、
 一生の傷になる)
自らの失敗経験(朧月夜の君との一件)を
引き合いに出し、
息子・夕霧に訓示を垂れています。
これが続く第三十三帖「藤裏葉」の
夕霧と雲居雁の
結婚成就の布石となるのです。

これまでも第二帖「帚木」
「雨夜の品定め」では「女性観」、
第十七帖「絵合」では「文学論・美術論」、
第二十一帖「少女」では
「学力観・教育観」、
第二十五帖「蛍」では「文学講義」と、
源氏の(というよりも紫式部の)
価値観が披露されてきました
(もしかしたら単に自分の博学を
ひけらかしたかった
だけなのかもしれませんが)。
物語の大きな流れとは関わりのない
些末な部分にも
詳細な記述を残してくれたおかげで、
後世の私たちは
平安の文化を知ることができるのです。

(2020.8.22)

GalleryMaさんによる写真ACからの写真

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